本上映は、国際的な評価を得ながらも日本では上映の機会に恵まれなかったハンガリーの映画監督メーサーロシュ・マールタの特集上映となります。イザベル・ユペール、アンナ・カリーナ、デルフィーヌ・セイリグなど、名だたる俳優を魅了し、アニエス・ヴァルダがオールタイム・ベストのひとつとしてその作品を挙げた、ハンガリーの映画監督メーサーロシュ・マールタ。彼女は第二次世界大戦中、スターリンの粛清が吹き荒れるなか、両親を亡くしました。孤児となった彼女は、ソヴィエトとハンガリーを行き来する人生を送っていました。彼女の作品にハンガリー事件(1956年)やファシズムの記憶が度々刻まれるのも必然です。そしてそれは、ロシアによるウクライナへの侵攻でヨーロッパ世界が揺れるいまこそ再考すべき歴史であることはいうまでもありません。
メーサーロシュ・マールタ監督について
1931年、ハンガリーの首都ブダペシュトに生を受けます。ファシズムが台頭する戦間期、両親とともにキルギスへ逃れるも、父親はスターリンの粛清の犠牲となり、その後、母は出産で命を落としました。ソヴィエトの児童養護施設に引き取られ、戦後ようやくハンガリーへ帰郷。1968年から長編映画を撮り始め、残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性達の姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃しません。1975年の『アダプション/ある母と娘の記録』は、第25回ベルリン国際映画祭において女性監督としてもハンガリーの監督としても史上初となる金熊賞受賞の快挙を成し遂げました。その後もカンヌ国際映画祭をはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たし、同時代のアニエス・ヴァルダらと並び、もっとも重要な女性作家としての地位を確立しました。最新作は2017年の“Aurora Borealis: Northern Light”。
日本初公開の5作品上映!
珠玉の作品群の中から、1975年ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた『アダプション/ある母と娘の記録』をはじめ、青春音楽映画の決定版『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』、ドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせたメーサーロシュが、作為性や修飾を極限にまで削ぎ落した「真実」の記録『ナイン・マンス』、結婚生活に絡めとられる2人の女性の連帯を厳しくも誠実なまなざしで捉えた精緻な秀作『マリとユリ』、イザベル・ユペール最初期の重要な出演作であり、見落とすことができない意欲作『ふたりの女、ひとつの宿命』の5本が日本初公開となります。
「メーサーロシュ・マールタ監督特集上映」
2023年5月26日より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開
公式サイト 予告編
後援:駐日ハンガリー大使館/リスト・ハンガリー文化センター
配給:東映ビデオ
© National Film Institute Hungary – Film Archive