現役日芸生による映画祭が今年で15年目を迎えます。今年は海外と直接交渉を含む16作品が上映されます。今回のテーマは、「はたらく×ジェンダー」で、1930年代から2020年の作品まで古今東西の16本が選ばれました。今年は昭和100年を迎え、男女雇用機会均等法の制定からは40年が経ちました。しかし、2024年のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位と相変わらず低迷しています。世界経済フォーラムによれば、完全なジェンダー平等の実現にはさらに123年を要するとされます。本映画祭は、はたらく人々がジェンダー問題に直面する古今東西の作品を通して観客と共に考えることを目的としています。弁士と三味線付きで上映する『君と別れて』(成瀬巳喜男)は、芸者2人を男性の視点からじっくり見せます。『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080,コメルス河畔通り23番地』(シャンタル・アケルマン)は、主婦の日常を圧倒的なリアリズムで映し出します。ほかにも世界最初の女性監督なのにも関わらず忘れられたアリス・ギイの半生を解き明かす『映画はアリスから始まった』など、「はたらく」と「ジェンダー」が交差する作品を揃えました。今年は、韓国の『下女』、ドイツの『マリア・ブラウンの結婚』、イギリスの『この自由な世界で』、フランスの『未来よ こんにちは』の過去最多となる4作品で海外の権利元と直接交渉が行われました。従来のジェンダー像が根強く残るエンタメ・映画業界を目指す映画学科生が、このように現状と向き合うことが、「変わらない」日本を揺るがすきっかけになるのではないでしょうか。
<上映作品>
『君と別れて』(1933/成瀬巳喜男)
今年、生誕120年でもある成瀬監督初の長編オリジナルシナリオであり、出世作。国立映画アーカイブ所蔵の貴重なフィルムを、活弁と三味線付きで上映。
『浪華悲歌』(1936/溝口健二)
同年の『祇園の姉妹』と共に、女性映画の巨匠と呼ばれた溝口健二監督の戦前期における代表作。主演山田五十鈴が演技派女優としての才能を開花させたと言われる作品。
『私たちはこんなに働いてゐる』(1945/水木荘也)
海軍衣料廠の女子挺身隊を圧倒的な熱量で映し出した国策映画。沖縄戦終結後の1945年6月に公開された国立映画アーカイブ所蔵の映像を上映。
『巨人と玩具』(1958/増村保造)
開高健の同名小説を、増村保造監督によって映像化した増村監督初期の傑作。高度経済成長期の企業社会の労働と消費を描いた日本映画の異色作。
『下女』(1960/キム・ギヨン)
実際に起きた下女による幼児殺害事件をモチーフにした作品。『パラサイト 半地下の家族』にも影響を与えたとされる、韓国映画最大の鬼才・金綺泳監督の代表作であり韓国映画史の傑作。
『その場所に女ありて』(1962/鈴木英夫)
高度成長期の東京、広告代理店でたくましく働く女性の姿を描いた鈴木英夫監督の代表作。1962年サンパウロ国際映画祭審査員特別賞受賞。
『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』(1970/今村昌平)
カンヌで2度最高賞を受賞した今村昌平監督による、戦後日本でバーを営み、したたかに生き抜く女性たちの25年間を記録したドキュメンタリー映画。
『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080,コメルス河畔通り23番地』(1975/シャンタル・アケルマン)
売春をする主婦の日常を長尺で映し出すアケルマン監督の代表作。2022年には英誌『Sight & Sound』の「史上最高の映画」批評家票で第1位に選出された。
『インタビュアー』(1978/ラナ・ゴゴベリゼ)
戦後のジョージア映画の巨匠の一人、ラナ・ゴゴベリゼ監督の佳作。ジョージア初のフェミニズム映画ともいわれ、ソヴィエト連邦国家賞、1979年サンレモ国際映画祭でグランプリ受賞。
『マリア・ブラウンの結婚』(1978/ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)
ニュー・ジャーマン・シネマを牽引したファスビンダー監督の代表作。主演のハンナ・シグラは第29回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞。
『あゝ野麦峠』(1979/ 山本薩夫)
1968年に一大ベストセラーとなった山本茂実の同名小説を、監督・山本薩夫、主演・大竹しのぶで映像化。信州の製糸工場で働く女工達を描き、邦画興行収入第2位、日本アカデミー賞最優秀音楽賞受賞。
『この自由な世界で』(2008/ケン・ローチ)
カンヌ国際映画祭でパルムドールを二度受賞したイギリスの名匠ケン・ローチ監督が、働くシングルマザーとイギリスの抱える社会問題を描く社会派作品。ヴェネツィア国際映画祭で脚本賞を受賞。
『未来よ こんにちは』(2016/ミア・ハンセン=ラブ)
エリック・ロメール監督の後継者と称されるミア・ハンセン=ラブ監督が中年の女性哲学教授(イザベル・ユペール)が静かに人生を再構築していく日常を描く。第66回ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。
『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020/キム・ドヨン)
日本でもベストセラーを記録した同名小説を、女優出身のキム・ドヨンが繊細な演出で映像化。育児をしながら再就職への道のりを模索する女性を描いた、長編デビュー作。第56回大鐘賞映画祭で主演女優賞を受賞。
『ある職場』(2020/船橋淳)
ホテル勤務の女性が上司からセクハラを受けた実際の事件を基に、後日談を描いた衝撃作。2020年東京国際映画祭コンペティション部門に選出。翌年日芸映画祭でプレミア上映。
『映画はアリスから始まった』(2022/パメラ・B・グリーン)
映画史から「忘れられた」世界初の女性映画監督、アリス・ギィ=ブラシェの功績を現代に甦らせるドキュメンタリー作品。第71回カンヌ国際映画祭正式出品、第15回バンクーバー国際女性映画祭最優秀ドキュメンタリー映画賞受賞。
映画祭「はたらく×ジェンダー」開催概要

主催:日本大学芸術学部映画学科映像表現・理論コース映画ビジネスゼミ、ユーロスペース
上映協力:クロックワークス/国立映画アーカイブ/コピアポア・フィルム/コミュニティシネマセンター/ジェイ・シネカノン/シネマクガフィン/松竹/松竹大谷図書館/東宝/パンドラ/マーメイドフィルム/ミカタ・エンターテインメント/KADOKAWA/BIG RIVER FILMS/金東洋/Les Films du Losange/Park Circus Marketing/Rainer Werner Fassbinder Foundation
会期:2025年12月6日(土)〜12月12日(金)
会場/一般のお問い合わせ:ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5KINOHAUS3F TEL:03-3461-0211)
公式ホームページ












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